電源が入らないハードディスク(HDD)から、データを取り出すには、復旧業者へ高額な作業料を支払うのが一般的です。しかし、素人でも安価にデータ取り出しが出来る場合が有るので、その方法を紹介致します。
壊れたハードディスク(HDD)から、データを取り出すには、HDDのコピー(クローン)を作成し、クローンのHDDで取り出し作業をするのが必須条件です。素人の方の多くは、クローンを作成せず、直接壊れたHDDで作業を行う為、問題を深刻化していく傾向に有るようです。
本稿では、壊れたHDDのクローンを格安で、精度良く作成する方法を解説します。尚、一般的なHDDクローン作成ツールは、壊れたHDDが、パソコンでHDDとして認識する必要が有ります。パソコンで認識しないHDDの場合は、姉妹記事
「電源の入らないHDDからデータを取り出す方法」
「パソコンで認識しないHDDからデータを取り出す方法」
を参照下さい。
1.HDDのクローン作成ツールの条件
HDDのクローンを作成するソフトは、無料、有料を含めて多数有ります。最近では、USBスタンド形式でパソコンを使わず、Readエラーが発生したセクタをスキップしてクローンを作成する物なども販売されています。
これらのツールには、欠点が有ります。Readエラーが発生した箇所が不明な事です。何故、Readエラーが発生した箇所を知る必要が有るかを説明します。
上図には、Windows7のHDDのパーティションが表示されています。
データの取り出しの観点で言えば、「システムで予約済み」のパーティションは、コピーしなくても大丈夫です。
弊社の経験上、Readエラーの発生しているHDDの多くは、HDDの先頭部(つまり上図で言えば、「システムで予約済み」のパーティション付近)で起きています。従って、この部分でReadエラーが発生した場合、このパーティションはコピーせず、次の実際にデータが保存されているパーティションのコピーをすればデータ取り出しは可能、ということになります。
精度良くHDDのクローンを作成するツールの必須要件は、
1) Readエラーが発生したセクタをスキップできる事
2) コピー結果(特にReadエラー箇所)が簡単に確認できる事
3) 後方コピーができる事
4) 範囲指定コピーができる事
5) 操作が簡単な事
等、になります。以上の条件の詳細を以下に説明致します。
1.1Readエラーが発生したセクタをスキップできる事
大半のクローン作成ソフトは、HDDのバックアップやHDDの交換を目的としている為、正常なHDDを対象にしています。従って、Readエラーが発生しているHDDのクローンを作成していると、途中でハングしてしまいます。
HDDからデータを取り出す目的の場合、Readエラーが発生している箇所(セクタ)をスキップして(ハングしないで)、最後までコピーする機能は必須です。
1.2コピー結果(特にReadエラー箇所)が簡単に確認できる事
前述の通り、Readエラーの発生個所が簡単に確認できる事は、重要な機能です。
クローンマイスターにおける、コピー結果の表示例
1.3 後方コピーができる事
HDDの状態によっては、正方向からのコピーを開始できない場合が有ります。この場合、逆方向からコピーを開始すると、クローンが作成出来る場合が有ります。無いと困る機能です。
1.4範囲指定コピーができる事
コピーの結果、比較的広い範囲でエラーが発生した場合、この範囲だけ、再度コピーを行いたい場合が有ります。この機能も無いと困る機能です。
1.5操作が簡単な事
クローン作成専用のソフトであれば、
① コピー元のHDDを選択
② コピー先のHDDを選択
③ オプションを選択(デフォルトが既に設定されている)
④ コピー開始ボタンを押す
の3~4回の操作で、コピーが開始します。
ここで、重要なのが、コピー元とコピー先のHDDを間違わない事です。逆にコピーすれば、データは永久に取り出せなくなります。
ちなみにクローンマイスターの場合、下図の設定画面のように、HDDの型番やシリアル番号が明示されます。加えて、コピー先のHDDの容量が、コピー元より小さい場合、コピーできない仕組みになっています。
クローンマイスターの設定画面
2.HDDのクローンの作成方法
本節では、クローンマイスターを使って、パソコン内蔵のHDDを取り外さずに、クローンを作成する方法を説明致します。
2.1用意するもの
1) USBアダプタ(一台用)
2) HDD(容量は、パソコン内蔵のHDDと同容量以上)
3) クローンマイスター
2.2クローンの作成
以下の手順で、HDDのクローンを作成します。
1)パソコンの電源を切ります。
2)HDDを接続した、USBアダプタをパソコンに接続します。
3)クローンマイスターのUSBをパソコンにセットします。
4)パソコンの電源をONにします。
5)起動の順番をUSB-HDDに切り替えます。(設定方法は、パソコンのメーカーにより異なります。)
UEFIブートの場合は、姉妹記事「UEFIモードのパソコンで、CD/DVDから起動する方法(まとめ)」を参考に、起動を行って下さい。
6)LINUXの画面が起動したら、クローンマイスターのアイコンをダブルクリックします。
パスワードの入力を求められる場合が有ります。
パスワードは、「nr」(エヌ、アール)です。
7)「デバイス情報の不一致」のメッセージが表示されるので、「OK」クリックします。
8)設定画面が表示されるので、コピー元のHDDを選択します。
9)コピー先のHDDを選択します。
10)「開始」をクリックします。
コピー中の表示画面
設定画面の「ログ表示」をクリックすると進捗状況がMAP表示されます。
3.壊れたHDDのクローンを精度良く作成する方法
これまで、壊れたHDDのクローンを作成するツールの条件と、弊社のクローンマイスターを例にとりながら、クローンの作成方法を説明しました。
しかし、壊れたHDDのクローンを作成すると、ほとんどの場合、Readエラーが発生します。このReadエラーが発生した箇所を限りなくゼロに近づける事が出来るかは、クローン作成ツールの良し悪しであり、使い方によります。(但し、HDDの特性上、Readエラーが発生しているセクタを完全に修復するということは、どのツールでも出来ないのも事実です。)
以下に、想定される(弊社が経験した)壊れたHDDのクローンを作成する時の操作方法をクローンマイスターを例にして、説明致します。
4.コピー開始直後から、エラーが発生した場合
まず、以下の方法でコピーを終了させます。
クローンマイスターの設定画面で、「開始」ボタンが押された状態になっているので、再度「開始」ボタンをクリックします。これで、コピーが停止されます。
次に、最初のパーティションがデータ取り出しに必要なパーティションかどうかにより、操作方法は、異なります。
4.1最初のパーティションは、データ取り出しに必要でない場合
Windowsの起動HDD、TeraStation、LinkStationなどのNASのHDD等は、最初のパーティションは、データ取り出しには必要のないパーティションになっています。(単独で起動させるには必要です。)
データの取り出しに必要なパーティションの開始位置と容量を調べて、クローンマイスターの設定画面に設定して、コピーを開始します。具体的には、
「開始位置」に、コピー開始する位置を、MB単位(整数値)で入力します。
「コピーサイズ」に、コピーするサイズを、MB単位(整数値)で入力します。
「開始」ボタンをクリックします。
4.2最初のパーティションから、データ取り出しに必要な場合 方法1
逆順コピーを行う方法です。逆順コピーはデータ復旧の手法としては、ポピュラーな方法です。但し、クローンマイスターの場合、正順コピーの約3倍以上の時間が掛かります。
具体的な方法は、
「反転モード」の「逆方向に読み込む」にチェックを入れて、
「開始」ボタンをクリックします。
4.3最初のパーティションから、データ取り出しに必要な場合 方法2
コピー開始位置を、ずらして、コピーを行い、最後にコピーしなかった範囲を再度設定して、コピーしなかった部分を無くす方法です。
この方法は、前節3.1の方法の応用した方法になります。しかし、この方法は手間が掛かります。
5.コピーの途中で起きたReadエラーを再度コピーする場合
指定範囲コピーの方法を応用します。
5.1Readエラーが発生している位置をMB単位で確認する
1)ログを表示します。
2)ログ表示画面内で、コピーを開始したいセルをダブルクリックします。
&show(): File not found: “11150017.bmp” at page “QBlog-20161122-1”;
3)このブロックの開始位置とサイズが上部に表示されています。
開始位置は、634.93G → 634.93×1000 MB = 634930 MB
サイズは、366.38MB → 367MB
5.2開始位置、サイズ、再試行の回数を設定して、コピーする
クローンマイスターには、Readエラーが発生しているセクタを修復する機能は有りません。なので、むやみに何回も再試行しても、データを取り戻せないばかりか、最悪HDDを完全に故障させる(パソコンで認識しなくなる)危険性を孕んでいます。
再試行は、合わせて最大10回程度と認識して下さい。
6.クローン作成後のログの例
6.1正常にコピーできた場合
これは、8GのUSBメモリを正常にコピーできた時のログです。コピー結果が正常でも、データを正しく読み込めない場合は、パーティション情報が消えているか、HDD内の論理障害が発生していると思われます
6.2先頭部分にReadエラーが発生した場合
先頭部分に、4.1KBのReadエラーが発生した時のログです。このように、部分的に発生したReadエラーの場合、まずはデータが正しく取り出しできたかどうかによります。
データの取り出しが出来なかった場合は、5章の「コピーの途中で起きたReadエラーを再度コピーする方法」を参考に、操作します。
6.3中間にReadエラーが発生した場合
中間部分に、2.32MBのReadエラーが発生したログです。前節と同様に、このように、部分的に発生したReadエラーの場合、まずはデータが正しく取り出しできたかどうかによります。
データの取り出しが出来なかった場合は、5章の「コピーの途中で起きたReadエラーを再度コピーする方法」を参考に、操作します。
6.4途中から後半すべてでReadエラーが発生した場合
途中から完全に読めなくなった場合が、下図になります。1.5TBのHDDで、前半の748Gまでは正常にコピーできたが、それ以降コピーできていません。
データが、748G以内であれば、データの取り出しは成功していますが、それ以降のデータの取り出しはできません。
この場合、逆方向からコピーをしてみるのも一手です。というのは、Readエラーが発生した箇所で、HDDのリセットが必要なエラーが発生した場合もこのような現象になる場合が有るからです。
一般的にはPC-3000等の高額なHDD復旧ツールを用いて、ヘッドの配置を入れ替えるか、ヘッドの交換が必要です。
6.5最初からReadエラーが発生した場合
この現象も、前節6.4と同じ現象です。最初の319.49KBは正常にRead出来ていて、それ以後、すべてでReadエラーが発生している為です。
7.まとめ
「壊れたHDDのクローンを精度良く作成する方法」と題して、クローン作成ツールに求められる機能をまとめ、実際にクローンを作成する方法、並びに、Readエラーが発生した場合の対処方法を列記しました。
この記事を参考にして、素人の方がプロ並みのデータ取り出しの成果を得る事を切に望みます。