HDD というのはある日突然壊れるものです。HDD が壊れた時に、復旧業者に頼むほどではないけれど、個人で可能な範囲でデータが取り出せるなら挑戦してみたいということがあります。今回はそのための方法について説明します。
壊れたHDDからデータを取り出すための心得
手順の説明に入る前に押さえておきたいことがいくつかあります。主に以下のようなことです:
- 症状を悪化させないように手を尽くす
- 失敗しても大丈夫なようにあらかじめ手を打つ
- 最終的には自己責任
より多くのデータを取り出すためには、壊れたHDDの症状を悪化させないように手を尽くすべきです。
まず、HDD を扱う際に物理的な衝撃を与えないように注意します。HDDの下には段ボールの切れ端でもいいので、クッション性のあるものを敷くべきです。ただし、熱がこもりすぎることや、静電気には注意してください。
次に、壊れたHDDに対する作業の手数や時間を最小限に抑えます。HDDに対する操作は少なければ少ないほど良いです。特に、時間がかかり、HDD に対する負荷が大きい、ファイル形式ごとの特徴からファイルのまとまりを推測して取り出す種類の救出ソフトの使用は最終手段です。可能であれば、壊れたHDDではなく、それのコピーに対して試行すべきです。
失敗しても大丈夫なようにあらかじめ手を打つことも重要です。作業の内容が可逆的か不可逆的かを意識してください。不可逆な操作はバックアップがある状態で行うことを心がけてください。
細心の注意を払って本稿を作成しておりますが、この情報の正確性および完全性の保証は致しかねます。
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業務上代替不可能なデータの復旧には専門業者が提供する復旧サービスのご利用をお勧めします。
個人でできる範囲とできない範囲
壊れたHDD からデータを取り出す方法には、特別な装置を必要とせず個人でも実行可能な範囲と、特別な装置がなければ不可能な範囲があります。
個人でも実行可能なのは以下の表のBからDの範囲です:
記号 | 区分 | 症状の内容 |
---|---|---|
A | 論理 | 回復不能かつ広範囲なデータ欠損 |
B | ディレクトリ構造やファイル名に関する情報が回復不可能 | |
C | 回復・代替可能なデータの欠損 | |
D | 物理 | 散発的なセクタ異常 |
E | 基盤異常等開封を伴わずに回復可能な異常 | |
F | ヘッドスタックアセンブリ等回復に開封作業を伴う異常 | |
G | プラッタが損傷している |
EとFはそもそも電源が入らなかったり、BIOS から認識されなかったりするので、個人では対処不可能です。動画共有サイトで、基板の交換やHDDの蓋を開けて部品を交換する内容のものがアップロードされていますが、絶対に真似しないでください。
AとGはそもそも専門業者でも取り出し不可能です。
Aはデータが上書きされている場合を含みます。一度のデータの上書きでは媒体面の残留磁気から元のデータが推測可能などと言われることがありますが、これは国家機密レベルの情報を膨大な資産をつぎ込んで取り出す場合の話です。個人や一般企業が実行可能なことではありません。
Gに対して専門業者は損傷の影響を受けていない部分のデータの取り出しのみを目指します。復旧業者に依頼する前に損傷の範囲を広げてしまわないことが重要です。
個人でできる範囲の手順
上記の表のBからDの範囲に対するデータの取り出し手順について説明します。この手順は以下の工程で構成されています:
- USB アダプタで接続してみる
- 読み出せるファイルを退避しておく
- クローンHDDを作成する
- パーティションテーブルを修復する
- ファイルシステムを修復する
- ファイルをスキャンする
以下では、各工程について詳しく説明します。
USB アダプタで接続してみる
はじめに、壊れたHDDを別のPCへ安全に接続するためのツールを用意します。これには SATA-USB変換ケーブル や、USB接続HDDスタンド があると便利です。ここでは、表記の簡略化のためにまとめて “USB アダプタ” と表記しています。
もちろん、デスクトップパソコンを持っていてPCの自作経験が豊富ならば、内蔵HDDとして取り付けてもかまいません。
接続したらPCとUSBアダプタの電源を入れて以下の点を確認します:
- 正常にスピンアップすること
- BIOS / UEFIから認識されること
スピンアップとは、HDD内部のプラッタが定格回転数で回転することです。スピンアップしているかどうかは、音・振動・軽く傾けた時のジャイロ効果による抵抗が感じられるかどうかで確認できます。
BIOS / UEFI から認識されているかどうかは、PC の BIOS / UEFI 画面の接続ディスク一覧で確認できます。このチェック項目はUSBアダプタ経由で接続した場合には不要です。
上記2点がクリアされない、この時点で異音がするといった場合には残念ながら個人でデータを取り出せる範囲を超えています。無理せず専門業者に依頼することが賢明です。
上記2点がクリアされた場合には次の2点を確認します:
- OS から認識されること
- S.M.A.R.T の状態
OS から認識されているかどうかは、OS の接続ディスク一覧で確認できます。これは、Windows ならば「ディスクの管理」で確認できます。
ついでに各パーティションが正しく認識されているかどうかも確認しておくと、のちの作業がスムーズに進みます。
S.M.A.R.T の状態は、Windows ならば CrystalDiskInfo で確認することができます。
代替不能セクタが検出されている場合には、後述するクローンHDDの作成の際に必ずエラーが出ます。しかし、S.M.A.R.T に代替不能セクタが記録されていなくても、実際にクローンHDDを作成している途中でエラーが発生することはあります。
読み出せるファイルを退避しておく
もし、壊れたHDDがOSから正しく認識されて、中身のファイルやフォルダをかろうじて見ることができる状態ならば、それらを別のストレージに取り出しておくことができます。
ただし、壊れたHDDからデータをコピーするわけですから、エラーに遭遇する可能性が高いです。そのため、エラーに遭遇したときにそれらを無視して、それ以外をノンストップで取り出せるツールを用いることが大切です。Windows ならばこの作業には FastCopy がおすすめです。
この作業の途中でHDDの症状が悪化することは十分に考えられます。コピーするファイルに優先順位をつけて、段階的に作業を進めましょう。
クローンHDDを作成する
壊れたHDDがOSから正しく認識されて、中身のファイルやフォルダをかろうじて見ることができなかった場合、見られたけどより多くのデータを取り出したい場合はクローンHDDを作成します。
クローンHDDとは、OSからはHDD固有の識別情報など以外は全く同じように見えるHDDのことです。Windows のエクスプローラーなどで行うことができるファイルシステムレベルでのファイルの複製を行ったHDDと区別するために「クローン」という表現を使う慣例があります。
以後の作業は不可逆であるか、HDDに多量の負荷をかけるものであるため、可能な限りクローンHDDを作成し、それに対して行うべきです。
壊れたHDDのクローンの作成に用いるツールは、エラーを無視する機能が必須です。状態が悪いHDDの場合には、それに加えてエラーが発生した箇所のコピー再試行など、できる限り多くのデータを取り出すための機能が求められます。
コピーツールの性質の違いについては エラーに遭遇した時にわかるHDDコピーツールの性質の違い に詳しくまとめてあります。
ここでどれだけのデータをコピーできるかによって、その後の作業の成否が大きく変わります。
エラーを無視する機能がある無料のツールとしては EaseUS Disk Copy がおすすめです。エラーが発生した箇所のコピー再試行機能などが搭載されているツールとしては有料(回数制限版:5,400円)ですが CloneMeister がおすすめです。
クローンHDDが作成できたら、それをUSBアダプタ経由もしくはSATAとマザーボードの直結でPCに接続し、問題が解決したかどうかを確認します。
場合によってはコピーツールで正常なHDDにデータを丸ごとコピーするだけで正常に使えるようになる場合があります。これは、壊れたHDDで読み書きするとOSなどから異常とみなされる個所が、コピーツールの作用で、クローンHDDでは正常化されているからです。
問題が解決していな場合は以下の工程をクローンHDDに対して行います。
パーティションテーブルを修復する
クローンHDDを作成した後もOS から各パーティションが正しく認識されていない場合は、パーティションテーブルを修復する必要があります。これには TestDisk を使用します。使用方法については 「TestDisk」の使い方 – PCと解 を参考にしてください。
これは不可逆的な操作なので可能な限りクローンHDDに対して行います。
ファイルシステムを修復する
クローンHDDを作成した後に、各パーティションは正しく認識されているものの、目的とするファイルが正しく読みだせない場合は、ファイルシステムの修復を行います。これには各ファイルシステムに付随する修復ツールを用います。OS、ファイルシステム、修復ツールの関係を簡単にまとめたのが以下の表です:
OS | ファイルシステム | 修復ツール |
---|---|---|
Windows | NTFS | chkdsk |
FAT32/64 | ||
UNIX系 | EXT2/3/4 | fsck |
UFS | ||
XFS | xfs_check, xfs_repair |
各修復ツールの使用方法については各々のドキュメントを参照してください。
これは不可逆的な操作なので可能な限りクローンHDDに対して行います。
ファイルをスキャンする
以上の工程で問題が解決しない場合にはファイルをスキャンする方法を用いることになります。世の中にある「データ復旧ソフト」や「データ救出ソフト」と呼ばれるものの多くはこのためのツールに部分的に前2工程に相当する機能を追加したものです。
これらのツールの多くはファイル形式ごとの特徴からファイルのまとまりを推測して取り出します。このため、ほとんどの場合にはフォルダの階層構造やファイル名が失われてしまいます。
また、これらのツールはHDD内のある連続した箇所が特定のファイル形式の特徴と符合するかどうかを何度もいろいろなパターンで試すので、ものすごく時間がかかります。
ファイルをスキャンするためのツールで無料のものとして有名なのは
PhotoRec です。利用方法は「PhotoRec」の使い方 – PCと解 を参考にしてください。
このほか、多くの有料ツールが存在します。有料ツールのほとんどは無料で「どれだけのファイルが取り出せる見込みか」というプレビューを見ることができます。ツールによって取り出せるデータが違うのでこれらのうち最も多くデータを取り出せそうなものを選ぶとよいでしょう。
ツールの中には有料版の製品登録をすればプレビューで表示されていないデータも取り出せることを謳っている場合もありますが、無料プレビューで表示されないデータが取り出せるようになることはほとんどないといっていいように思います。
多くの場合、この作業は可逆的ですが、HDDに対してものすごく負荷がかかるので、可能な限りクローンHDDに対して行います。
まとめ
本稿では、壊れたHDDからデータを取り出すにはどうしたらいいのかについて説明しました。まず初めに、そのための心得について説明しました。次に、個人でできる範囲とできない範囲の場合の仕分けを行いました。次に、個人でできる範囲の実際の手順について説明しました。
壊れたHDDから少しでも多くのデータが取り出せることを願っています。